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シンガポールIRカジノ解説:IRカジノビジネス解説 第6回

  • 執筆者の写真: Prism ラスベガス
    Prism ラスベガス
  • 6月2日
  • 読了時間: 11分

はじめに


IRカジノビジネス解説シリーズでは、これまで「IRとは何か」「日本のIR計画」「アジアのIRカジノ市場」などをテーマに解説をしてきました。今回は、前回のアジア市場概観でも日本IRの参考事例のひとつとしてご紹介した、シンガポールのIR市場に焦点を当てて解説します。


【注】本記事はIRカジノ事業にご興味のあるビジネス関係者向けに各市場の概要をお届けする目的で執筆しています。あくまでも参考情報としてご覧ください。2026年6月時点での情報です。


シンガポールIRとは


シンガポールには2施設のIRカジノのみが存在します。その2施設合計の年間売上高(カジノ・ホテル・飲食・ショッピング等を含む総収益)は、2025年通期で約73.6億米ドル(約1兆1,036億円)に達しています。


その2施設のひとつで日本でもよく知られている独特なデザインのIRカジノリゾート、マリーナベイ・サンズの2025年の年間売上高は約55.9億米ドル(約8,385億円)。東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを運営するオリエンタルランドの年間売上高(約6,848億円)を1施設だけで上回る規模です。業種もビジネスモデルも違うので単純な比較というわけにはいきませんが、日本でおなじみのエンターテインメント施設と並べることで、その規模感のイメージが伝わるかと思います。


また、シンガポールのIRカジノは観光・雇用・税収の面でシンガポール経済に貢献しています。2024年の観光・旅行産業はGDPの約9.8%で57万人の雇用を支えており、2025年1〜9月の観光収入は過去最高を記録。「観光・エンターテインメント・ゲーミング部門」は前年同期比15%増と、成長を牽引したカテゴリのひとつとシンガポール政府観光局からも発表されています。


シンガポールがIRカジノを解禁した経緯


シンガポールは建国以来カジノを禁止してきました。しかし、2004年当時の首相リー・シェンロン氏がIRの検討をはじめ、2006年にカジノの規制と運営を定めた「カジノ規制法(Casino Control Act)」が国会で可決され、最大2施設のカジノ免許を10年間付与することが決定されました。その後2010年に現在の2大IRカジノ、マリーナベイ・サンズ、そしてリゾート・ワールド・セントーサが開業することになります。


シンガポール政府がIR導入を検討した主な背景としては、観光競争力の低下への対応策であったとされています。当時のシンガポールはバンコク・香港・マレーシアなど近隣地域との観光競争において、市場シェア縮小に危機感を持っており、IR導入は数万人以上の雇用創出と観光・レジャー産業の活性化を目的とした経済政策として検討されました。


デュオポリー(2施設独占)制度とは


シンガポールのIRカジノは法律により2施設のみに限定されています。この枠組みを「デュオポリー」と呼びます。2006年のカジノ規制法(Casino Control Act)制定時、シンガポール政府は2施設のIR事業者に対し「10年間の独占期間」を付与することを法律で定めました。尚、これは2施設の運営独占権で、カジノ運営ライセンスは3年更新で別途審査、更新、付与されます。


その後当初の独占期間(デュオポリー)は2017年に期限を迎えましたが、2019年にシンガポール政府は両施設の大規模拡張投資(合計約70億米ドル・約1兆1,250億円規模)を条件として、デュオポリーを2030年12月31日まで延長することを決定しました。


この枠組みが意味するのは、2030年まではシンガポール国内に新たなカジノが設置されないということです。2施設の事業者にとっては国内競合のない安定した事業環境が保証される一方、政府は大規模な観光・MICE投資を事業者に義務付けることで、シンガポール全体の観光競争力の向上を図る構造になっています。


マリーナベイ・サンズ (Marina Bay Sands)

独特のデザインで屋上にあるインフィニティプールが有名なラグジュアリーリゾート。チャンギ国際空港から車で20~30分程にあります。



リゾート・ワールド・セントーサ(Resorts World Sentosa)

ユニバーサルスタジオや水族館などファミリー向けアジア最大リゾート。チャンギ国際空港から車で20~30分程のセントーサ島にあります。




2施設はそれぞれ異なるコンセプトで設計されており、マリーナベイ・サンズはビジネス、ラグジュアリー層をターゲットとした都市型IR。リゾート・ワールド・セントーサはファミリー・レジャー層をターゲットとした島型リゾートです。この2施設が互いに異なる顧客層を取り込む棲み分け構造となっている点は、日本IRを検討する上でも参考となる設計思想かと思われます。


MICEとカジノを組み合わせた事業モデル


シンガポールIRの成功を語る上で欠かせないのが、MICE機能とカジノの組み合わせです。マリーナベイ・サンズは世界最大規模のコンベンションセンターを完備しており、アジアを代表するMICE拠点のひとつとして機能しています。MICE参加者は宿泊・飲食・ショッピングを通じて施設全体の消費に貢献する高付加価値の顧客層。このビジネス層を核とした集客がカジノ収益と組み合わさることで、特定の送客国やVIP客への依存度が高いマカオ・フィリピンと比較して、より安定した収益構造を実現しています。


日本のIR整備法でも、カジノを含む複合施設にMICE施設の設置が義務付けられており、この点はシンガポールモデルを直接参考にしたものと言われています。


自国民への入場規制:ギャンブル依存症対策


シンガポールのカジノ規制法では、ギャンブル依存症対策としてシンガポール国籍者・永住者に対する入場規制が定められています。


シンガポール国籍者・永住者の入場料は

  • $150シンガポールドル/24時間または

  • $3,000シンガポールドル/1年間


外国人は入場料なしで利用できます。


また21歳未満の入場禁止、家族による入場排除申請制度(Family Exclusion Order)、本人による自己排除制度なども法律で規定されています。


日本のIR整備法でも同様の内容が採用されており、日本国籍者・在留外国人に対し1回あたり6,000円の入場料と7日間で3回・28日間で10回までの入場回数制限が設けられています。外国人は入場料なしで利用できます。




2施設の最新動向(2026年)

マリーナベイ・サンズ(Marina Bay Sands)


マリーナベイ・サンズは当時ラスベガスにてザ・ヴェネチアン(1999年開業)・パラッツォ(2008年開業)を所有、運営していたラスベガス・サンズ社によって2010年4月にカジノ部門がオープン、2011年2月に全施設がグランドオープンされました。


3棟・57階建てのホテル(客室1,850室・うちスイート775室)、4フロアにわたるカジノ(テーブルゲーム約600台・電子ゲーミングマシン3,000台)、約200店舗のショッピングモール「The Shoppes at Marina Bay Sands」、世界最大級のコンベンションセンター「Sands Expo & Convention Centre」を一体的に備えた巨大IRリゾートです。57階には宿泊者専用のインフィニティプールを擁するSkyParkがあり、シンガポールを代表するランドマークとなっています。


2026年現在「MBS IR2」と称する大規模拡張プロジェクトが進行中。総工費約80億米ドル(約1兆2,000億円)で、4棟目のホテル棟(570室のラグジュアリースイート)、15,000席規模のアリーナ、MICE施設の拡張を含み、2025年7月に着工、2031年1月の開業を目指しています。


【補足情報】ラスベガス・サンズ社はザ・ヴェネチアン、パラッツォをプライベートエクイティと土地所有会社に2022年に売却済みであり、ラスベガス・サンズとの資本・運営上の関係はありません。現在のラスベガス・サンズの事業はマリーナベイ・サンズとマカオの2市場に集中しており、マリーナベイ・サンズは同社収益の過半数を生み出す中核資産となっています。



リゾート・ワールド・セントーサ(Resorts World Sentosa)


リゾート・ワールド・セントーサはマレーシアのゲンティン・グループの子会社、ゲンティン・シンガポールが運営するIRリゾートです。シンガポールのリゾートアイランド、セントーサ島に位置し、2010年1月にホテルがソフトオープン、同年2月14日にカジノが開業しました。


総面積49ヘクタールの敷地に、ユニバーサル・スタジオ・シンガポール、シンガポール・オセアナリウム、ドルフィン・アイランド、アドベンチャー・コーブ・ウォーターパークなどの世界水準のアトラクションを擁しています。7棟のホテル(客室1,800室以上)、世界水準のコンベンションセンター、カジノ(フロア面積15,000㎡)、セレブリティシェフ監修のレストラン群を一体的に備えたアジアを代表するライフスタイル・デスティネーションリゾートです。


2025年には「RWS 2.0」と称する大規模リニューアルの一環として、ユニバーサル・スタジオ・シンガポール内に「イルミネーション・ミニオン・ランド」(2025年2月開業)、新水族館「シンガポール・オセアナリウム」(2025年7月)、新商業施設「WEAVE」(2025年7月)、ラグジュアリーホテル「ザ・ローラス」(2025年10月)を相次いで開業しました。次フェーズとして、2024年11月に着工したウォーターフロント・ライフスタイル・ディベロップメント(2030年完成予定)では、2棟の新ラグジュアリーホテル(計700室)、4層構造の商業・飲食施設などさらなる複合施設の追加が計画されています。


一方で、シンガポールのギャンブル規制局(GRA)は2024年11月18日の公式声明において、リゾート・ワールド・セントーサのカジノ免許を2025年2月6日付けで2年間更新することを発表しました。通常の3年から短縮された理由として、2021年1月1日から2023年12月31日の評価期間におけるRWSの観光拠点としてのパフォーマンスが不十分であり、複数の改善が必要な分野があると判断されたためとしています。2026年4月、ゲンティン・シンガポールは株主向け声明において「RWS 2.0」リニューアルがシンガポールの観光戦略に沿って順調に進んでおり、2027年の次回審査での通常3年免許への復帰に向けて十分な準備ができていると表明しています。


【補足情報】リゾート・ワールド・セントーサを運営するゲンティン・シンガポールの親会社はマレーシアのゲンティン・バーハッドであり、同グループはマレーシアのゲンティン・ハイランド、そして2021年に開業したラスベガス・ストリップに立地するリゾーツ・ワールド・ラスベガスも傘下に持ち運営を行っています。



2施設の比較(2026年時点)

項目

マリーナベイ・サンズ

リゾート・ワールド・セントーサ

運営会社

ラスベガス・サンズ(米国)※1


ゲンティン・シンガポール(マレーシア系)※2 

上場

ニューヨーク証券取引所(NYSE)

シンガポール証券取引所(SGX)

開業

2010年4月(2011年2月グランドオープン)

2010年1月ホテル開業・2月カジノ開業

客室数

1,850室(うちスイート775室)

1,800室以上(7ホテル)

カジノ規模

テーブル約600台・スロット3,000台

テーブル約450台・スロット約2,400台

カジノ面積※3

約15,000㎡

約15,000㎡

主要ターゲット

ビジネス・MICE・プレミアム層

ファミリー・レジャー・観光客

特徴施設

コンベンションセンター、アートサイエンス美術館、Sands SkyParkインフィニティプールなど

ユニバーサル・スタジオ、オセアナリウム、アドベンチャー、コーブ・ウォーターパークなどアミューズメント施設

2025年売上高

約55.9億米ドル(約8,385億円)

約19.6億米ドル(約2,940億円)※4

2025年営業利益

約29.2億米ドル(約4,380億円)

約6.5億米ドル(約975億円)※5

免許更新

3年更新(2025年4月〜)

2年の暫定更新(2025年2月〜)

グループ会社の他施設

  • ザ・ヴェネチアン・マカオ

  • ザ・ロンドナー・マカオ

  • ザ・パリジャン・マカオ

  • ザ・プラザ・マカオ&フォーシーズンズ・マカオ

  • サンズ・マカオ

  • ゲンティン・ハイランド

    (マレーシア)

  • リゾーツ・ワールド・ラスベガス

  • リゾーツ・ワールド・

    ニューヨーク・シティ

  • リゾーツ・ワールド・バハマ

  • ゲンティン・カジノズ

    (英国・ロンドン含む30施設以上)

  • リゾーツ・ワールド・エジプト

※1 ラスベガス・サンズはラスベガスのザ・ヴェネチアン・パラッツォを2022年に売却済み。現在の事業はシンガポールとマカオの2市場のみ。

※2 ゲンティン・シンガポールの親会社はゲンティン・バーハッド(マレーシア)。同グループはリゾーツ・ワールド・ラスベガスも保有。

※3シンガポール当局から承認されている最大の面積

※4、5数字はGenting Berhad 2025年次報告書のSGD建て数字を1SGD=0.8米ドル・1SGD=125円で換算した参考値


シンガポールIRカジノから日本IRが学べること


シンガポールIRは開業から15年以上にわたり、観光振興・雇用創出・税収確保の3点でシンガポール経済に貢献してきました。日本のIR整備法はシンガポールの制度設計を多くの点で参考にしており、施設数の限定・入場料制度・依存症対策・MICE施設との一体運営義務などが共通しています。


特に注目すべきは2施設の「棲み分け戦略」です。都市型ビジネスIRとファミリー型リゾートIRという異なるコンセプトで設計することで、互いに異なる顧客層を取り込み、限られた施設数でも市場全体を広くカバーする構造を実現しました。日本でも大阪・横浜・長崎など複数地域でのIR誘致が検討されてきた経緯がありますが、各施設の差別化戦略はシンガポールから学べる重要な視点です。


一方で現在、マリーナベイ・サンズとリゾート・ワールド・セントーサの収益格差の拡大や、コロナ後の回復速度の違いなど、新たな課題も明らかになっています。ギャンブル規制局(GRA)がリゾート・ワールド・セントーサへの免許更新を暫定2年に短縮したことが示すように、シンガポール政府は施設の魅力維持・向上を事業者に継続的に求めています。


日本IRにおいても開業後の継続投資と競争力維持は不可欠な課題となるでしょう。大阪IRの2030年代開業に向けて、シンガポールIRの進化は引き続き最も注目すべき参考事例のひとつです。




参考資料:シンガポール内務省(MHA)公式発表・カジノ規制法(Casino Control Act 2006)、ギャンブル規制局(GRA)公式情報(2024年11月18日プレスリリース)、シンガポール政府観光局(STB)公式発表(2026年2月)、Las Vegas Sands Corporation 2025年次報告書、Genting Berhad 2025年次報告書、シンガポール通商産業省(MTI)資料、WTTC(世界旅行ツーリズム協会)2025年2月発表、オリエンタルランド2025年3月期決算報告、Inside Asian Gaming(IAG)各種報道(2025年〜2026年)、iGB(iGaming Business)2026年4月10日報道、CDC Gaming各種報道(2025年〜2026年)ほか各種公開情報






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